地域間医療格差にICTで挑む

どこでも高度医療可能な環境を

今回の話題はどうしても専門用語の羅列と医療業界の実情に関する予備知識が求められる内容のため、私が責任の持てる範囲で「噛み砕いて」お伝えする作業にチャレンジさせていただきます。
ちなみに敢えてタイトルを付けるとすれば「地域間医療格差にICTで挑む」となります。

地域間の医療格差の深刻な問題に関しては、当初からここでも再三触れ続けて来ています。
何より私自身がこのブログを始めようと決心したキッカケの大きな1つが、地域間医療格差の現状に対する危機感である事も、繰り返し明記して来た通りです。

日本国内で加速が続く高齢化、それに伴う医療従事者すなわち医師や看護師の慢性的不足、そして高齢者の人口比率が高い地域ほど、慢性的な医療機関不足が顕著である現実、これらをただ嘆くばかりでは根本的な解決は叶いません。
そこで発案された改善策が、インターネットなど急速に発達した通信技術と通信網を駆使した「情報通信技術(ICT)に基づく、全国各地で最先端の医療施術を可能とするシステムの構築」なのです。

患者毎の手術シミュレーションの構築

ですがどれだけ優れた通信技術と環境が確保出来たとしても、肝心の伝える内容が伴わなければ意味がありません。
このシステム構築に際しては、熟練医師の存在が欠かせません。
豊富な経験値と検証を重ねたデータをデータベース化し、医療格差に困窮する大都市圏以外にもそのノウハウを正確に伝える事で、医療技術を共有しようという試みなのです。
平たく言えば「お手本と手引きの全国共有」と表現出来るでしょうか。

但し忘れてはならない点、それは医療行為とは生身の人間に施す、生命に深く関わる施術である事、そして患者さん1人1人の身体や健康状態は全てサンプルとは細かい点で異なる事実です。
医療行為は机上の論理をそのまま当て嵌めるだけでは、最大の効果を得られるとは限らず、更には僅かな見落しが大きなリスクを手招きし兼ねません。
何よりICTで得た技術を実践する医師と、指導者の立ち位置を担うベテラン医師は別人であり、通信機器を通した情報伝達は細かい部分のニュアンスに関し、自ずと限界が存在します。
多くの課題を残している事実こそ避けられませんが、こうした試みに「挑む姿勢」は高く評価されるべきだと考えています。

男性不妊治療に助成

負担を減らす

冒頭から沢山漢字が並び、何やら堅苦しい先入観をお届けしてしまったかも知れませんが、画期的とも言える「男性不妊治療への助成」のご案内ですので、ぜひご確認ください。
これは不妊症で子宝に恵まれぬご夫婦を対象に、体外受精、顕微授精に必要な費用の一部を倉敷市側が負担助成し、ご夫婦の経済的負担を軽減する制度の正式名称です。

実施は平成27年度からで、特定赴任治療を目的に精巣内精子採取を実践されたご夫婦に対し、治療1回に対して上限5万円以内の助成を実施しています。
但し以下の条件を全てクリアしたご夫婦に限定されます。

まずは治療開始時点で法律上の婚姻届を提出した夫婦であり、請求日時点で倉敷市内に夫婦いずれか1名の住所が存在していなければなりません。
いわゆる事実婚、あるいは住民票の住所が倉敷市外で生活拠点が倉敷という方々は対象外です。
次にご夫婦の前年どの所得合計額が730万円未満の方々のみが対象で、これを越える所得の方々には適用されません。
こうした詳細は倉敷市が行っている助成金給付事業の公式ホームページを通じ、詳細確認が可能です。

第三者からの精子提供は対象外

また押さえておかねばならない重要なポイントとして、夫婦以外の第三者の精子、卵子、胚の提供を仰ぐ治療は、この助成制度の適用対象外となる事を念押ししておきます。
当然代理母、あるいは借り腹と称される治療も対象外です。
不妊治療に際し、第三者の身体が絡んだ場合、全て対象外だとご理解ください。

不妊治療は非常に繊細な一面を含んでおり、時に生命をどう解釈するのか、同義的な問題が論じられるケースも避けられません。
当然市井とすれば、こうした複雑な個人の問題に関わるリスクは回避したいところだと解釈出来ますが、敢えて1歩踏み込み今回の助成金制度を実践している倉敷市の姿勢は、間違いなく評価に値すると捉えています。
まだ開始間もない新たな制度ですが、不妊にお悩みのご夫婦には、まずはこの制度の存在を知っていただき、正しい関連知識の収集から着手いただければと考えています。

片頭痛国内初治療

人体の神秘

今回は文字通り「人体の神秘」を再確認いただける、そんな治療方法が国内で初めて実践されtお話です。
キーワードは「片頭痛」と「心臓」です。
これだけでは誰もが「何の事だ?頭痛と心臓なんて全く別の話だろ?」と受け取られて当然でしょうし、私自身の率直な第一印象も皆さんと同じでした。
ですが以下にご紹介するのは、片頭痛患者の心臓内に小さな穴をカテーテルで塞ぎ、それで片頭痛の症状を改善させる手術の実践のニュースなのです。

これまで片頭痛の治療は薬物治療が中心であり、当然心臓手術を絡ませるのは国内初の試みです。
なぜこうした治療法の実施が決定されたのかを、以下に出来るだけ簡潔に説明させていただきます。

心臓の小さな穴と片頭痛の関連性

岡山大病院の研究の結果、片頭痛患者の約半数の方々の心臓には、胎児の時には存在していた心臓に存在する、直径1~2ミリ程度の卵円孔と呼ばれる穴が、塞がらずそのままになっている事実の発見に至ったのです。
この卵円孔と片頭痛の関連性を更に突き詰め、太股の静脈経由でカテーテルを挿入し、この卵円孔をカテーテル先端の閉鎖栓を用いて閉じる施術を施す手術法の実践が発案されました。
手術時間も1時間程度で済むため、患者への身体的負担やリスクも抑えられ、大きな成果が期待されている新たな手術法です。

ちなみに片頭痛は現在、国内の成人の約8%余りの方々が発症されており、症状が酷い場合は日常生活そのものに深刻な悪影響を及ぼしています。
片頭痛のメカニズムに関しては、まだ解明されていない部分も多く、今回の新たな施術が確かな効果を示してくれる事への期待感が高まっています。
岡山の医療機関が柔軟な発想から斬新な医療方法を開発した事実は、医療に携わる私としても嬉しく誇らしい限りです。

但し現時点では全ての施術対象者に対し、確かな効果が保証出来ない事もあり、保険適用外の手術として実施され、入院費を含め、約130万円が全額自己負担となるところからのスタートです。
今後の確かな成果を通じ、患者の費用面の負担軽減が1日も早く叶う事を願っています。